「まちの匠ぷらす」補助金活用 通風と採光を残した耐震リフォーム

「まちの匠ぷらす」補助金活用
通風と採光を残した京町家の耐震リフォーム

DETA
場所:京都市 東山区
建築年月:不明、1976年に確認申請
構造:平屋京町家に2階増築/1階伝統構法、2階在来工法
階数:2階建て 主屋と離れがある
家族構成:高齢のご夫婦と息子さん

目標耐震性能:目標耐震性能 0.7
ご予算:数百万円くらい、補助金額100万円を目指したい。
コンセプト:伝統的な住まいを守りながら、安全に暮らせる家へ。
本事例は、「京都市耐震診断士派遣事業」を通じて、イシテクが耐震診断を担当したことから始まりました。
築年数の経った京町家で、泉涌寺近くの旧街道沿いという、京都らしい風情を色濃く残す建物です。
お施主様のご希望は、「地震に備えて、必要な補強だけをしておきたい」「建物の風情や明るさ、通風の良さは残したい」というものでした。
特に1階座敷には、床の間や縁側、庭とのつながりといった、京町家特有の開放的な空間がしっかりと残っており、私たちもこの魅力をできる限り活かすことを大切にしました。
今回の耐震改修では、「京町家らしさを損なわずに補強すること」と、「2階増築部分の構造的な不安を改善すること」の2点を軸に、耐震診断・補助金申請・設計・施工までトータルでお手伝いしました。
「京都市 耐震改修助成制度(まちの匠ぷらす)」を活用し、コストを抑えながら、効果的な耐震リフォームが実現できた事例です。

耐震補強計画
調査と診断:京町家の2階増築と離れの構造把握
イシテクではまず、京都市指定の耐震診断士として、耐震診断を行いました。
お話を伺う中で、もともとは平屋建ての京町家で、後に2階を増築されたことが判明。さらに別棟に離れも増築されていました。
主屋と離れをそれぞれ個別に耐震診断した結果、いずれも「倒壊の可能性が高い」という判定に。
この診断結果を元に、**京都市の耐震補改修助成金(まちの匠ぷらす)**の対象となる耐震改修計画を立てていきました。
補強箇所と改修工事前後の構造評点の変化
・1階・2階ともすべて0.7以上になるように設計しました。
・ 住みながらの工事を希望されたため、居住空間にできる限り影響がないように、1階の廊下の部分を中心に耐震補強しています。
・ 2階が乗っている部分の1階の壁をバランスよく補強しました。
・ 2階は、補修しやすいクロス張りの洋室と、押し入れに、耐震金物を設置するのみとしました。


耐震工事のポイント解説
POINT 1 床下の調査
イシテク耐震リフォームでは、まず床下に潜り、基礎の状態を丁寧に調査します。
京町家の基礎には鉄筋が入っていない場合が多く、高さも低いため、ひび割れなどの劣化がよく見られます。
また、土台や柱には、シロアリによる被害が発見されることも少なくありません。
これらの部分は比較的目視で確認しやすいため、プロによる定期的なチェックをおすすめしています。

無筋コンクリート基礎の真ん中で、パックリと割れてしまっています。

シロアリは光と乾燥に弱いので、このように道を作って木の中を移動します。床下に土があるので、湿気がこもりやすく、木部にシロアリの被害が起こりやすい箇所です。
POINT 2 廊下部分の基礎の補強
ひび割れのあった基礎には、添え基礎として丈夫な鉄筋コンクリートを新設し、しっかりと緊結することで強度を高めました。
今回は廊下部分の補強だったため、スペースが限られており重機が入らず、すべて手作業での施工となりました。
【工事の流れ】
- 廊下の床を解体
- 地面を手作業で掘削
- 基礎の鉄筋を組み立てる
- コンクリートを打設
- 既存の土台と新設の鉄筋コンクリートをボルトで緊結
- 新しい土台と新しい基礎も緊結し、一体化
こうした丁寧な施工により、廊下部分の耐震性をしっかりと確保しました。
POINT 3 構造用合板を使った土壁の補強
近年では、もともと土壁だった場所も、クロス仕上げにリフォームされていることが多く見られます。
土壁は、それ自体が優れた耐力壁ですが、さらに強度を高めるために、既存の土壁を活かしつつ補強を行います。
具体的には、土壁と柱の間にある約2cmの隙間を利用して、その内側に構造用合板を施工し、しっかりとした耐力壁を新たに造ります。
施工後は、もとのようにクロスを張って仕上げるため、見た目は以前とほとんど変わりませんが、構造的には格段に強化されています。

あれ?土壁には見えませんね。土壁であっても、こちらのように、クロス張りにリフォームされているところは多く見られます。元々、この建物は京町家ですので、このようにクロス張りになっていたとしても、土壁が隠れていることは、壁をめくらなくても、容易に想定できます。


解体すると、元々の土壁が現れました。土壁はそのままに、「チリ」と呼ばれる、この壁面と柱の面の2㎝程の隙間を利用して、耐力壁を造ります。

土壁の補強にも、耐震金物は大切です。
こちらは、床下に潜って、土台と柱を固定する耐震金物を取り付けています。
POINT 4 光と風の通る、開放感!透光型耐力壁
京町家の大きな魅力のひとつは、お座敷から縁側、そして庭へと視線が抜ける、開放的で風情ある空間にあります。その魅力を損なわず、さらに光や風が通り抜ける心地よさも大切にしながら、耐震補強に取り組みました。
今回は、旭トステム外装株式会社の通気性のある耐力面材「パンチ君」を活用することで、視線の抜けや通風・採光といった京町家らしさを残しつつ、構造的な安心も備えたリフォームを実現しています。


こちらは施工後の写真です。
障子を閉めていると、工事前と変わらないお座敷の落ち着いた風景が広がりますが、障子を開けると、その奥に現れるのが新たに設けた格子です。
この格子部分が、実は耐震性を高めるための“耐力壁”としての役割を担っています。
今回の工事では、旭トステム外装株式会社さんの「パンチ君」という通気性のある耐力面材を使用しました。
素材は厚さ1.6mmのスチール製で、色は和の空間にも自然になじむオフホワイト。
格子としての意匠性と、構造材としての強さの両立が可能なこの製品を使うことで、京町家らしい光や風の通り道を残しながら、安心できる住まいへと生まれ変わりました。


今回は、パンチ君を取り付けるための柱を新たに建てていますが、圧迫感もなく、空間になじんで見えますね。


POINT 5 シロアリ・害獣対策
京町家にお住まいの方のお困りごとで多いのが、シロアリや天井を走り回るネズミやイタチなどの侵入です。
シロアリ・害獣の侵入対策

京町家では、湿気のたまりやすい土台や柱の根元にシロアリ被害が出やすいため、薬剤による防蟻処理が効果的です。
ただし、薬剤の効果は約5年。安心を保つためには、5年ごとの再処理がおすすめです。
見た目では被害に気づきにくいことも多いため、定期的な床下点検も、住まいを長持ちさせるポイントです。

ネズミやイタチなどの害獣は、わずかなすき間からでも家の中に入り込もうとします。
そのため、私たちは侵入の形跡を一か所ずつ丁寧に確認し、ネットなどでしっかりと塞いでいきます。
ただし、完全に防ぐのは簡単ではなく、新たな場所に穴をあけて再び侵入してくることもあります。「これで完璧」という対策がないのが実情ですが、だからこそ根気強く、ひとつひとつ塞いでいくことが大切です。
住まい手の方と一緒に、安心できる環境を少しずつ整えていければと考えています。

工事のポイント
補助金を活用する場合は、申請するために、やるべきことも多く、時間が必要。
1.土壁は解体せず活かす
イシテクでは、土壁そのものを立派な耐力壁と考え、できるだけ解体せずに活かす設計を行っています。
2.適材適所の耐震補強
構造用合板や「パンチ君」、耐震金物などを組み合わせ、建物の状態に合わせたバランスのよい補強計画を立てています。
3.光と風が通る、開放的な補強
開放感を損なわずに耐震性を高める工事も可能です。既製品の活用により、工期を短縮でき、暮らしながらの施工にも適しています。
4.シロアリ・害獣対策は根気よく
シロアリや害獣への対策は「いたちごっこ」になりがちですが、決して無駄ではありません。完璧な対策は難しくとも、一つひとつ根気よく対処することが大切です。

補助金を活用した耐震リフォームのスケジュール感
今回のように比較的小規模な耐震リフォームでも、補助金を活用する場合は、想像以上に時間がかかることがあります。耐震診断にはおおよそ2~3か月、その後の補助金交付申請から完了報告までは約9か月を要し、全体でほぼ1年ほどの期間がかかりました。
ご計画の際は、工事そのものの期間だけでなく、補助金手続きに必要な時間も見込んで、早めの準備をおすすめします。
京都市の木造住宅耐震診断を申し込まれた際に、私が担当させていただくことになりました。
主屋と離れを別々に診断しました。
主屋は、平屋建ての京町家に2階を増築されており、その時の確認申請書類があった為、京安心住まいセンターと協議のうえ、今回は、京町家ではなく、在来工法の木造住宅として耐震診断を行うことになりました。
離れも、在来工法の木造住宅として耐震診断を行いました。
京都市の耐震診断は、建物の耐震性能(構造用評点)と構造用評点を1.0以上に挙げた場合にかかる概算費用を合わせて報告します。
主屋:構造評点 0.48 (概算予算:約300万円)
離れ:構造評点 0.12 (概算予算:約190万円)
目標耐震性能、ご予算、スケジュール等をお伺いして、ご提案しました。
イシテクのご提案は、構造用評点0,7で、270万円程度、構造用評点1.0で640万円程度となりました。
補助金に関しては、木造住宅で、構造用評点0.7以上を目指すので100万円となりますが、今回は、離れの工事を行わないため、家全体の耐震性能が上がるわけではないので、補助金額は80万円となりました。
今回は、ご家族が暮らす、主屋のみ耐震工事を行うことになりました。
申請後、約2か月で補助金の交付決定となりました。その連絡は、京都市よりお客様に直接郵送されました。
「補助金の基準となる構造評点0.7となるように」という条件で、設計契約を結び、設計を開始しました。
設計するにあたり、床下の調査を行ったところ、基礎の破断とシロアリの被害が見つかりましたので、設計の変更を行いました。
採光型の耐力壁の採用と、基礎の増設をご提案し、お客様からご了承を頂きました。
基礎の補強工事が増えたので、補助金の変更申請を行いました。
申請から約1か月後に工事内容の変更の承認が下り、京都市からお客様へ結果が郵送され、ようやく工事契約を結ぶことが出来ました。
変更承認がなかなか下りなかったため、職人さんの手配が大変でしたが、無事に工事がスタートしました。
工事期間は約1か月かかりました。
お支払いをしていただき、「工事完了報告書」を制作しました。
修正や訂正を求められることは少なくありませんので、念には念を入れて、京都市へ工事完了報告を行いました。
契約書と領収書、工事完了報告書を提出。補助金の交付。

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