清水坂の京町家を支える石垣の補強工事(モルダム工法) 

石山テクノ建設のマスコットキャラクター イシ君&テクちゃん
清水坂の京町家を支える石垣の補強工事(モルダム工法)

モルダム工法採用の背景

今回の施工は、改修後にお土産店として新たに活用される予定の「京町家」における、空石積み擁壁の補強工事です。

本工事の計画にあたっては、以下のような複数の課題とご要望がございました。

  • 景観への配慮: お土産店として多くのお客様を迎えるにあたり、京都らしい情緒ある町並みに溶け込む自然な美しさを維持すること。
  • 観光地・狭小地での施工:一日中、人どおりの絶えない観光地であることや 隣家との隙間が非常に狭く、重機の進入や大規模な仮設工事、コンクリートの打ち込みが困難な敷地条件であること。
  • 工期・予算の抑制: 開店スケジュールに合わせるために工期をできるだけ短縮し、造り替えに比べて全体のコストを抑えること。

施工前

これらの課題を同時にクリアできる最適な補強方法として、私たちは、既存の石積みを解体せずに補強できる「モルダム工法」を提案し、ご採用いただきました。

大規模な造り替え(RC擁壁化など)に比べて、省スペースかつ手作業を中心とした柔軟な施工ができるため、工期とコストを大幅に削減できます。さらに、周囲に馴染む「顔料入りモルタル」を用いた目地仕上げを施すことで、京都の美しい景観を壊さずに強固な擁壁へと補強することが可能です。

今回は、この京町家での施工プロセスを詳しくご紹介いたします。まずは、工事に先立って行われた「事前現地調査」の様子からご覧ください。

代表取締役会長 石山 孝史
一級土木管理技士 石山 孝史

事前現地調査・状況診断

改修前の石垣の様子
調査の様子
調査の様子

京都で昔からお付き合いのある設計事務所の所長様から、「東京のクライアント様からのご依頼で、石積みの補強を検討している。ぜひ一度現地を見てほしい」とのお声をかけていただきました。

さっそく現地に伺い、入念な事前調査を行ったところ、以下のような技術的・環境的な課題が判明いたしました。

  • 構造的な課題(空積み):
    こちらの石積みは「空積み(からづみ)」と呼ばれる、法面(斜面)に石をそのまま積み上げた構造でした。石の背面にコンクリートなどの裏込めが施されていないため、崩れやすい状態となっていました。
  • 経年による劣化:
    長年の風雨により経年劣化が進んでおり、石と石の間の隙間(空隙)が広がっていました。また、その隙間に植物が根を張って生い茂っていることも、劣化を促進させている要因となっていました。
  • 狭小地での足場架設:
    隣家との距離が非常に近く、さらに敷地内にある既存の生垣を間引く(カットする)ことができない条件でしたので、足場を組み立てるだけでも高度な技術と事前の工夫が求められる状況でした。
  • 観光地ならではの立地制限:
    人気の観光地エリアに位置しており、前面道路は昼間、観光客や車で激しく混雑します。そのため、資材の搬入や工事に伴う廃棄物の搬出作業は、夜間(19時以降)または早朝(朝7時前)の時間帯に限定して実施せざるを得ませんでした。

このような問題や厳しい敷地・環境条件を確実にクリアするため、工事担当者が知恵を絞り、安全性を最優先した綿密な施工計画と工程表を立案いたしました。

ここからは、これらの課題にどのように対処しながら工事を進めたのか、実際の施工プロセス(手順)を詳しくご紹介いたします。

石山テクノ建設のマスコットキャラクター イシ君&テクちゃん
モルダム工法 施工プロセス

モルダム工法施工要領説明動画

工程1 不純物除去工(植物の根や土の徹底除去)

施工前:たくさんの草やコケが生えています。
草の根やコケを丁寧に取り除きます
生えてこないようにバナーで根を焼きます

石積みの隙間に生えている植物の根や、長年蓄積された土を手作業で丁寧に取り除きます。植物は根元からしっかりと引き抜き、奥に詰まった土も、丁寧にかき出します。
さらに、残った根から雑草が再発するのを防ぐため、ガスバーナーを用いて隙間の中をしっかりと焼却(熱処理)します。

この入念な下準備により、接着充填剤が奥深くまでスムーズに注入できるようになります。

工程2 下地処理工(高圧洗浄・吸水調整剤の塗布)

隙間に残った細かい土や砂などの汚れを高圧洗浄機で徹底的に洗い流す
洗浄後の様子
吸水調整剤を噴霧器で塗布
吸水調整剤を噴霧器で奥まで塗布

隙間に残った細かい土や砂などの汚れを高圧洗浄機で徹底的に洗い流します。充填剤と石の接着力を十分に確保するために、非常に重要な工程です。

洗浄後にしっかりと乾燥させたうえで、吸水調整剤を噴霧器で塗布します。これは、石が充填剤の水分を急激に吸収して生じる「接着不良(ドライアウト)」を防ぐための重要な処理であり、塗布後は再度十分に乾燥させます。

工程3 水抜き加工シート及び遮壁層設置工

ヤシの繊維でできた「水抜き加工シート」
「水抜き加工シート」を設置
周囲を発泡ウレタンを注入

擁壁背面の水を適切に排出するため、「水抜き加工シート」を設置します(設置目安は1平方メートルあたり1本)。シートの片端(不織布部分)から水を取り込んで前方に逃がす仕組みです。

設置時には、のちに注入する接着充填剤がシートに回り込んで排水機能を損なわないよう、周囲を発泡ウレタンでしっかりと密閉し、遮壁層を形成します。

工程6 注入工(充填剤の練り混ぜ・注入作業)

狭い場所での注入の様子
狭い場所での注入の様子
接着充填剤の練りあがりの様子
しっかりと奥まで注入

セメント、砂、専用液(Gハイパー)、水を適切に配合して練り混ぜ、ソフトクリームほどの適度な粘度を持つ接着充填剤を作ります。
ホースの詰まりを防ぐため、網を通してダマを除去してから注入ポンプへ投入。注入の際は、ノズルを石積みの隙間の奥深くへ差し込み、内部が満たされて隣の隙間から溢れ出てくるのを確認しながら慎重に充填します。ノズルが入らない細部についても、手作業で丁寧に押し込んでいきます。

工程4 表面刷毛引き仕上げ工

刷毛引き仕上げ後
コテや刷毛を使って表面をならす
細部は細いコテを用いて仕上げます

充填剤の注入完了後、目地表面からはみ出た余分な材料を取り除き、水で濡らした刷毛を用いて丁寧に引き込んで滑らかに整えます。

美観に配慮して仕上げたのち、充填剤の硬化を待ちます。

工程8 表面顔料入りモルタル充填および刷毛引き仕上げ

顔料入りモルタルを塗った直後の様子
吸水調整剤を表面に刷毛で塗り乾かす
顔料入りモルタルを塗り込む

「目地が白く浮き出てしまうのを防ぎたい」「周囲の歴史的な景観に馴染ませたい」といったご要望に対応する、石山テクノ建設オリジナルの景観配慮型の仕上げ方法です。

黒などの顔料を調合したモルタル充填剤を練り上げ、コテを使って丁寧に塗り込みます。この際、充填剤が石の表面より外側に突出しないよう配慮し、さらに水を含ませた刷毛で太さを調整しながら均すことで、美しく自然な外観に仕上げます。

最後に、あらかじめ設置しておいた水抜き加工シートの飛び出している余分な長さを、カッターで根元からきれいに切り落とすことで、補強工事が完了します。

完成  京都の街並みに溶け込み、安心感を備えた石垣に

モルダム工法 施工前
施工前
施工後

無事にすべての工程が完了し、崩壊の危険が伴っていた空積みの石垣が、京都の風情ある美しさと、高い耐久性を兼ね備えた安全な擁壁へと生まれ変わりました。

接着充填剤を石積み内部の隅々にまで行き渡らせることで、石同士を強力に接着し、崩れやすかった空積みの擁壁を「一枚岩」のように一体化させています。同時に、事前の計画通りに「水抜き加工シート」を適切に配置することで、擁壁の裏側に水が溜まるのを防ぐ優れた排水機能も確保いたしました。水圧による擁壁への負荷を逃がしながら高い強度を維持できるため、 今後の地震や大雨に対しても高い安心感を備えることができました。

美観の面においては、お土産店として新しく生まれ変わる京町家にふさわしい、味わい深い質感を目指しました。目地が白く浮き立ちすぎて周囲から浮いてしまわないよう、黒の顔料を繊細に調合したモルタルを使用し、職人が手作業で丁寧に刷毛引き仕上げを施しています。これにより、何年もそこにあったかのように、歴史ある京都の古い街並みへ自然に調和する、落ち着いた仕上がりとなりました。

隣家との狭小スペースでの足場架設や、昼間の往来を避けた早朝・夜間の資材搬入など、制約の多い困難な現場環境ではありましたが、クライアント様や近隣の皆様のご理解とご協力、そして設計事務所様との密な連携により、無事に工事を完了させることができました。

これからお土産店として多くの観光客の皆様を温かく迎え、周囲の皆様に末長く安心をお届けできる擁壁になれば、弊社としても大変嬉しく存じます。

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モルダム工法 施工後

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